静岡地方裁判所 昭和63年(わ)108号 判決 1988年6月23日
本籍
静岡市呉服町二丁目二番地の七
住居
右同所
飲食店経営
望月富夫
昭和一六年一〇月二〇日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官和田英一出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役二年及び罰金六〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、静岡市呉服町二丁目二番地の七に居住し、同所において飲食店を経営する傍ら、自ら株式の売買を行うなどして多額の所得を得ていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、右売買を自己以外に家族及び借用名義で行うなどの方法により所得を秘匿した上、
第一 昭和五九年分の実際の総所得金額が七一五二万五八四一円で、これに対する所得税額が三七五一万四五〇〇円であったのに、昭和六〇年三月一五日、同市追手町一〇番八八号所在の静岡税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五五三万三二三九円で、これに対する所得税額が六一万八〇〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、正規の所得税額との差額三六八九万六五〇〇円を免れ
第二 昭和六〇年分の実際の総所得金額が一億二〇三七万三〇五九円で、これに対する所得税額が七一三一万六二〇〇円であったのに、昭和六一年三月一三日、同税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四〇六万八一〇円で、これに対する所得税額が三七万九〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、正規の所得税額との差額七〇九四万五三〇〇円を免れ、
第三 昭和六一年分の実際の総所得金額が二億八七〇三万一〇〇四円で、これに対する所得税額が一億八八二二万二二〇〇円であったのに、昭和六二年三月一六日、同税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四〇〇万二三三二円で、これに対する所得税額が四一万六八〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、正規の所得税額との差額一億八七八〇万五四〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書
一 被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書八通
一 望月節子の検察官に対する供述調書
一 山本勝彦(二通)、大川萬、相良喜久江及び望月節子(二通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料及び査察官調査書(一八通)
判示第一の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和五九年度分)及び証明書(昭和五九年度分・四通)
判示第二の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和六〇年度分)及び証明書(昭和六〇年度分・三通)
判示第三の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和六一年度分)及び証明書(昭和六一年度分・三通)
(法令の適用)
被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、その免れた所得税の額がいずれも五〇〇万円をこえるので、情状により同条二項を適用し、各所定刑中懲役刑と罰金刑とを併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年及び罰金六〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は、多額の株式を多数回にわたり売買して利益を経ていた被告人が、昭和五九年度から同六一年度までの三年度にわたり、税務署に過少の所得税確定申告書を提出して、右所得税額との差額を免れたという事案であるが、そのほ脱額は総額二億九五六四万七二〇〇円もの巨額に上り、ほ脱率も約九九・五パーセントに達している上、他人名義を借用して株式売買をし、証券会社から郵便物を受けるに当たっては当該証券会社名の記載のない白地封筒を使わせる等して、株式売買の回数を少なく見えるよう巧みに仮装するなど、犯行の態様・手口も悪質である。しかも、本件犯行の動機には特に酌むべき点もなく、これらの事情に徴すれば、被告人の本件犯行は納税という国民の基本的義務に著しく反するものとして、その刑事責任は重いといわなければならない。
しかしながら、他方、被告人は捜査、公判を通じて本件犯行を素直に認め、改悛の情が顕著であること、被告人は起訴前に所得税の修正申告をし、重加算税を含め一切の税金を完済していること、被告人は平素飲食店の経営に励み、妻子とともに平穏な生活を送っていたこと、被告人には前科・前歴が一切ないこと等被告人に有利な事情もあるので、これらを総合考慮した上、懲役刑についてはその刑の執行を猶予するのが相当であると認め、主文のとおり量刑した次第である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 立石健二)